ユッコの最後のアルバム『ヴィ-ナス誕生』
タイトルそのままに、それまでの『岡田有希子の世界』から、一歩大人に踏み出したラブsongたち…。

【アルバム詳細】

●1年目=シンデレラ
●2年目=妖精&人魚

岡田有希子にテ-マを与えていたが長時間に渡る企画会議から始まるレコ-ド作り。

3年目の有希子のテ-マは、今までよりもっと踏み出て「スペ-シィサイエンスシティ」にと考えられて『ヴィ-ナス』に決定した。

「有希子チャンの場合、アルバム制作の上でベ-スになるイメ-ジは、いつもメルヘンチックなもので今回は『宇宙』をテ-マにしました。
元々、そんなに器用な人ではないのですが、今回は1曲ごとに彼女の微妙な変化が出せました」

キャニオンレコ-ド・渡辺有三プロデュ-サ-談

●アルバム(コンセプト)の決定

●作詞作曲陣リストアップ

●作曲の発注ハミング等による仮歌の録音

●アレンジされたバックの音の録音

●ヴォ-カル録り
(有希子の出番)
※アルバム全体の出来を左右する1番大事な作業

コンピュ-タ-が主力の楽器の音とは違って、ヴォ-カルは生身の音だから、その日の体調や精神状態によって全く変わってしまう。

だからこそ、スタッフはヴォ-カル録りに細心の注意を掃う。

有希子のヴォ-カル録りは、学業と仕事で忙しい過密スケジュ-ルをやり繰りしてレコ-ディングは、昭和61年1月8日『銀河のバカンス』から始まって、20日間に渡って一口坂スタジオで収録された。



プロデュ-サ-兼ディレクタ-には、デビュ-時からの付き合いの渡辺有三を筆頭にして、音には厳しいスタッフ達だが岡田有希子『ヴィ-ナス』へと導いて行く、腕利きの水先案内人たちが揃った。

1曲1曲クリアして行くに連れて、有希子自身が変わって行く。

プロモ-ション
インタビュ-
テレビ撮影
パ-ティ-
グラビア撮影
溝口マネジャ-の手帳は真っ黒に埋っている。

レコ-ディングのスケジュ-ルも遅れ気味の中でスタッフがポツリと呟く。
「有希子、大丈夫かな?」
スタッフの誰もが同じ事を考えていた。
自分たちの仕事の遅れよりも、小さな有希子の健康の事を心配している。

彼女は移動の車の中で腕時計を見ながらヤキモキしていた。
「お早ようございます!!」
ハ-ドスケジュ-ルの疲れを掻き消す、彼女の明るい声がスタジオに響き渡ると主役の登場したスタジオは急に活気づく。

ソファ-に座って、熱いお茶を飲み、つかの間の休息を取って小さくコクンと喉を鳴らして、有希子はお茶を飲み終えた。

1月22日
●プロデュ-サ-
じゃあ、佐藤さん!スタジオへ!

▼有希子
………。

●佳代さん…、スタジオへ!

▼有希子
佐藤佳代は歌いません!
岡田有希子が歌います!


そして有希子は、レコ-ディングル-ムに入って行く。



渡辺有三プロデュ-サ-は、時には悪役を演じながらも、さりげない会話で有希子のボルテ-ジをドンドンと上げて行く。

リテイク… リテイク…。
少しでも『完壁』に近付けようと深夜のスタジオでは、有希子と音の戦いが続いていく。

そして、有希子を見つめるスタッフの目は大きな優しさを保ちながらも厳しい。
スタッフの意見もドンドン取り入れて、マイクで有希子に指示を与える。

何度もリテイクが続くと有希子の「はい…」と言う返事も段々と小さくなってくる。
すると渡辺有三プロデュ-サ-の言葉は、ハイレベルな要求は忘れずに益々、優しく包み込むようになる。

甘さだけの慰めだけではなく、もっと大きな優しさで時には有希子の隣に立って、レッスンすると彼女はホッとした笑顔を見せる。

学校の制服のままスタジオ入りした時、「明日は朝から学校なの…」と言って、レコ-ディングを終えて帰る時の有希子は、疲れているんだろうけど弾んだ声でそう言った。

スタジオの重い扉を開けて有希子が出て来る。

順調に歌えた時には、軽くスキップなどしながら、難航した時には扉を開けるのもキツそうに…。

コントロ-ル・ル-ムの1番奥の壁に沿ったソファ-が有希子の定位置。
時々、10円玉を何枚か握りしめて入口脇の電話に向かう。
こういう時はスタッフ達も気を利かしてオフリミット。

1月20日
六本木ア-トセンタ-でジャケットの写真撮影



『十月の人魚』から、大人の魅力を見せるようになった有希子…
今回もそのラインを発展させて『MORE&SPACY&FANTASIC』をイメ-ジして、撮影スタジオには特注のネオン管が幻想的な光と影を織り成している。
それをバックにヴィ-ナスに変わる有希子。
有希子自身も知らなかった新しい魅力を放っ有希子がいる。
撮影を終えたカメラマンも自信作と誇る。



リテイク… リテイク…。
一日平均1・5曲の快調なペ-スでレコ-ディングが進められていた。
寒い日が続いて、小雪が散らついている日もあった。

1月27日
有希子は風邪を引いてしまう。
時々、咳込んだり、鼻をクスンクスンと鳴らしながらマイクに向かいレコ-ディングをする。

しかし声が伸びず音程が不安定…。

スタジオの空気が乾燥しているせいか、ピチャピチャとリップ・ノイズが耳につく。

深夜0時22分にレコ-ディング終了して、リプレイを聞く渡辺有三プロデュ-サ-の表情が優れない。

体のコンディションの良し悪しが一番ハッキリ出るのが声で結局、翌28日に改めてもう1度手直しする事になった。

ソファ-に深々と沈み込んだ有希子は、微熱でもあるのか瞳が揺れている。

●今1番したい事は何?
『スキュバダイビングとテニス』
即座に答えた有希子は、隣の溝口マネジャ-に言う。

『お休み下さ−い!』

本音混じりのチョット甘えた声を出して、溝口マネジャ-は苦笑いをして、申し訳なさそうに首を横に振った。

1月28日
19時・レコ-ディング最終日。

有希子は取材が長引いて予定より、20分遅れてスタジオ入り。
風邪の具合も少し良くなった様子で、前日よりも顔色が良い。

最終日とあってスタジオには、『眠れぬ夜のAQUARIUS』を作詞した麻生圭子。
少し遅れてかしぶち哲朗らが顔を見せる。
そんな賑やかな中でレコ-ディングが進められた。

レコ-ディング前に「ユッコちゃん!」と、手招きしながら彼女を呼ぶと怪訝そうな有希子に受話器が手渡された。

『…もしもし…?』

不安と戸惑いを隠せない口ぶりだが、数秒後に有希子の唇から笑いが勢いよく零れ落ちた。

『えぇ、今日で最後なんです。
昨日、風邪ひいちゃったんですけど…、もう治っちゃいました。
頑張って歌います。
えッ…!?、楽しみに待ってます!』


受話器を置いた有希子は微笑み混じりだった。

『坂本龍一さんがレコ-ディングが早く終わったら、来てくれるんですって!』!

「さあ、ユッコちゃん!もう1曲録るから頑張って!」

最後のナンバ-曲『眠れぬ夜のAQUARIUS』でレコ-ディングは再開された。



『ユッコちゃん、最後にもう1つだけ。
昨日やった『ジュピタ-』の3行目(何も無かったのに)『に』が欲しいんです。
フラットしないようにね』


前夜、やり残した部分をリテイク部分が終われば全て終了する。

スタッフが昨日のテイクを流して有希子に聴いて貰う。
有希子は目を閉じて、流れて来るメロディに耳を傾ける。

リテイクした後で渡辺有三プロデュ-サ-が言う。

『合格点をあげても良いと思います。
でも、7行目の『出てくる』の符割りが不安定なんだよね。
これはミスかも知れないし、ユッコちゃんの癖なのかも知れない。
癖だったら、そのまま残すけど、どうしょうか?


有希子は、視線を天井のライトに向けて、暫く考えた後にキッパリと答えた。

『もう1度、全部、歌わせて下さい』

有希子は上体をスウィングさせながら、気持ち良さそうに優しく包み込むようにに歌いあげる。

残念ながら、レコ-ディングが難航していた坂本龍一は、姿を見せなかったせいか最後にスタジオを出る有希子は、少しガッカリした様な顔をしていたが、スタッフ達の顔にも笑みが零れて、全てのヴォ-カル録りが無事に終了した。

『お世話になりました』

有希子は渡辺有三プロデュ-サ-の背中を突いてピョコンと頭を下げた。

『疲れただろう?ユッコちゃん?』

『えぇ、でも楽しかったです』

『どんな気分?』

悪戯ぽっい目で問いかけられた有希子は、軽く首を傾けて、乱れた前髪をかき上げながら答えた。

『上手く言えないけど、何だか少し大人になったような…。
う−ん?上手く言えない!』


もどかしそうに有希子は首を振る。

「ユッコ!!」

溝口マネジャ-の呼ぶ声に有希子は微笑みで答えて、小さな背中を向けて小走りに出口へと向かう。

レコ-ディングの時は重かった扉を軽々と開ける。
そして、体を半分を向こう側に隠してクルリと振り向いて、何か忘れ物でもしたような顔で有希子は言った。

『ねぇ?私、ヴィ-ナスになれたかしら?』

アルバムが完成した時、まさしく『ヴィ-ナス』誕生した瞬間であった。











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