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【プロローグ】
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 冷静になって考えてみよう。

 まず、第一に視覚。
 下に流れていく景色はスローモーション。ここまで自分に集中力があったことに、自分自身今まで気付かなかった。
 常人はこういう場面では走馬灯というものを見るらしいが、結局のところ、もうその真偽が分かることは無さそうだ。
 目に飛び込んできたのは燃えるような紅(あか)。端から見ていたなら綺麗とも思えるほどである。その液体が何処から出たのかを知る術は、もはやどこにもありはしない。
 目の前にいる人物に視線を向けてみる。笑っている?泣いている?よくわからない。

 次に進むことにする。


 第二に聴覚。
 聞こえたのはその液体が飛び散る音と、自らの声にならない叫び。自分でそれを制御することは無理だと分かっているから不思議なものだ。
 あとは目の前にいる人物の呟き。口の動きは見えるが何を言っているのかまでは分からない。

『さようなら』?

 結局よく分からなかった。


 第三に触覚。
 その手をどれだけ伸ばそうと何も掴めないことは、もう分かっている。
 痛さはない。まるで他人事のようだ。

 あとは味覚と嗅覚だが、敢えて一言で言い表すと「鉄」。口の中にも鼻腔の奥にもそれが溢れている感覚。味覚に関しては酸性っぽいというのもある。

 自分の脳裏にしきりに浮かんでくる言葉は「どうしてこんなことになってしまったのか」という疑問。それでも、残念ながら、俺は第六感というものは持ち合わせていないので全く想像もできないが。


 ふと俺は考えた。

 俺の死に様はどんなものだろう。

 少しして、未来予知ができるわけでもないのを思い出し、少し嘲笑した。

 そんなことを思いながら、

 俺の意識は途切れた。
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