すまない … すまない … ぱらぱらと降り注ぐ、涙の雨。 ぱらぱらと、ぱらぱらと…止むそぶりを見せない。 ボクは大丈夫だよ。だから泣かないで…。 焼け付く様に右目と体が痛む。 だけど、心配をかけまいとそれを堪えて笑う。 だけど口から出たのは赤い鮮血で…。 それでも伝え様と、必死に口を動かす。 ボクは大丈夫だよ。だから泣かないで…泣かないで…。 いつもの様に頬を撫でたくても、体は、指は、ぴくりとも動かない。 その間も、涙の雨は降り注ぐ。 すまない … すまない … すまない … そう言って紅い眼は涙を流しながら、ただひたすら謝り続ける。 すまない … ギナ … 夕焼け色の瞳からまた涙が零れ落ちる。 ボクは大丈夫だよ。…だから泣かないで … 『 』 ―――――――――――― 「なか…」 はっと目を開ける。 そこにあったのは夢で見たものではなく、白い天井だった。 「あ…れ……?」 寝ぼけながら目を擦り、また天井を見上げる。 「………家の天井って、こんな感じだったっけ?」 確かクリーム色じゃなかったけ?、と言って首を傾げて数秒後、はっとある事を思い出す。 「ここ…家じゃなくてホテルだったんだ」 ぽん、と両手を打ち、すっかり忘れてたよ、と誰に言うでもなく1人苦笑する。 そして上半身だけを起こし、うんと背伸びをする。 さすが一流の高級ホテルなだけあってベッドの寝心地は最高。 もちろん、綺麗に隅々まで掃除された部屋にキッチン、リビングやテラスも文句のつけ様がない。 「兄さんはいつもこんな部屋に泊ってるのかな」 そう言って隣りのベッドを見る。 だがベッドの中は空っぽで、寝ているはずの兄の姿は何処にもなかった。 「あれ?、兄さん?」 きょろきょろと辺りを見回すが、やはり兄の姿はない。 ―――と、ふわりとほろ苦いコーヒーの香りが鼻をくすぐった。 香りのする方を見れば、リビングへ通じるドアが少し開いていて、コーヒーの香りはそこから漂ってきている。 「…もしかして」 ベッドから下り、少し開いたドアへと向かう。 そしてカチャリとドアを開けると、リビングの椅子に座り新聞を読みながらコーヒーを飲んでいる兄と目が合った。 「おはようギナ。よく寝れたかい?」 そう言ってコーヒーを片手に微笑む兄―――ミクリの姿に、彼と同じ髪色をした青年はふわりと微笑み、おはよう、と返した。 超有名なトップコーディネーターであり、ホウエン地方現チャンピオンである兄、ミクリと共にカントー地方のとある大きな街へ来たのは、今から2日前の事。 仕事であまり家に帰ってこないミクリが、いつも留守番ばかりだから…今度仕事でカントーに行くんだけど一緒に行かないか?、と誘って来たのが始まりだった。 「兄さん、せっかく今日は珍しく朝から仕事がないんだから、ゆっくり寝てれば良かったのに」 そう言って苦笑する彼の名前は、ギナ。 ミクリと同じエメラルドグリーンのお尻辺りまである長髪に、同じエメラルドグリーンの瞳。 そして、女性の様な可愛らしい顔立ちに華奢な体をした、ミクリの6歳年下の弟である。 「なんだか早く眼が覚めちゃってね」 「だったら僕も起こしてくれれば良かったのに」 「ぐっすり寝てたから起こさなかったんだよ。ギナの分のコーヒーも用意しておくから。その間に顔洗っておいで」 「うん。砂糖とミルクたっぷりでお願いね」 「分かってるよ」 ほら早く言っておいで、と言って背中を押すミクリに、もう子供じゃないんだから分かってるよ、と苦笑しながらギナは洗面所へと向かった。 ギナには2つ、普通の人とは違う所がある。 その1つは…洗面所の鏡に映るギナの顔にあった。 額の中心から右目を通り、斜めに走る2本の痛々しい傷痕。 そして今はパジャマで隠れているが、ギナの体にも右肩から左の脇腹にかけて斜めに走る3本の同じ古傷があった。 これは昔、ギナが野生のポケモンに襲われ大怪我をおった時の古傷で、顔におった怪我が原因でギナは右目を失明したのだが… 彼自身とても小さかった為、その時の事はよく覚えていない。 「(…そう言えば今日、あの時の事…夢で見た様な…)」 じっと鏡に映る自分の顔を見ながら、そっと自分の古傷に触れる。 体と右目に走る、激しい痛み。 口から溢れる鮮血。 ただひたすら謝り続ける声。 ―――そして、涙の雨を降らす紅い … あかい …… 「………なんだっけ?」 そう言って首を傾げる。 だが、いくら思い出そうとしても、目覚めると同時に消えてしまった夢は思い出せず… 「…ま、いっか」 その一言で終わらせると、ギナは長い自分の髪をうなじで1つに結んだ。 <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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